吉祥女子中学・高等学校

オリジナル副読本を使用した独自の国語教育

私学的授業
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【吉祥女子中学・高等学校】オリジナル副読本(吉祥読本)を使用した独自の国語教育

深い読解力、高い思考力、豊かな表現力を養い、全教科の根幹となる「国語力」を身につけることを目標としている吉祥女子中学・高等学校の国語教育。現代文の授業では、検定教科書の他にも小説や評論が載った同校オリジナルテキスト『吉祥読本』を副教材として使用し、難度の高い優れた文章を読むことで、読解力や思考力をさらに伸ばしていく指導が行われている。今回は、独自教材『吉祥読本』を軸に、同校の「国語教育」で伸ばしたい力について話をうかがった。

お話を聞いた国語科教諭の山家菊世先生(右)と渡辺麻里先生

お話を聞いた国語科教諭の山家菊世先生(右)と渡辺麻里先生

「吉祥読本」の制作意図と思い

言葉の使い方や感じ方の拠り所となる文学作品に触れてほしい

どのような経緯で、オリジナルテキスト『吉祥読本』を作られることになったのですか。
山家先生
検定教科書は、生徒にとって比較的読みやすい教材が多くなっています。それを危惧して、7年前の2009年に『吉祥読本』の初版を作ることになりました。最初は文学的な作品が2つ、評論が2つでしたが、2年前に7作品を加えて現在の『吉祥読本』になりました。
渡辺先生
人間は言葉なしでは生きていけませんから、生徒にはひとつの言葉が相手を勇気づけたり傷つけたりするということを考えてほしいといつも思っています。そういう拠り所になるもののひとつが、文学作品だと思うんです。言葉の使い方を学んだり、感じたりするという意味で、比較的古い文章や定番になっている作品の表現に触れてもらいたいと考えたことが、『吉祥読本』を作った要因だったと思います。
多くの作品がある中で選定はどのような基準でされたのですか。
渡辺先生
以前は検定教科書に入っていたけれども、時代が新しくなり最近は入っていない作品から選びました。長年使うことを想定した普遍性のあるテーマで、表現の美しさにこだわり、日本文化の背景なども大切にしました。
小説や評論が載った吉祥女子中学・高等学校オリジナルテキスト『吉祥読本』
『吉祥読本』収録作品
[鼓くらべ] 山本周五郎
[サアカスの馬] 安岡章太郎
[清兵衛と瓢箪] 志賀直哉
[山椒魚] 井伏鱒二
[セメント樽の中の手紙] 葉山嘉樹
[家族を「する」家] 藤原智美
ほか、全11作品を収録
「吉祥読本」で身につく力

作品の世界によって、視野を広げ、自分の感性を磨く

『吉祥読本』でいろいろな作品に触れた生徒たちは、どのような反応ですか。
山家先生
授業では検定教科書と同じように扱っていますので、生徒たちは線引きをすることなく、抵抗もあまりないと思います。ひとつの作品として「次はこれを読もう」という感じで読んでいますね。古い作品には、今では馴染みのないような習慣や言葉も出てきますが、文学作品を通じて視野を広げ、自分の感性を磨いてもらいたいと思っています。無意識のうちに生徒の視野が広がっていくことが理想です。
渡辺先生
「この言葉はなんだろう?」と考えることは検定教科書でも可能ですが、『吉祥読本』ではより考えることができると思うのです。また「セメント樽の中の手紙」のような現代からは想像できない内容の文学作品を読むことで、少し前の日本の時代のある一事象を知ってほしいと思います。また、文学作品を味わう・感じるだけではなく、他者の考えを受容して理解し、そこで考えたことを筋道を立てて発信することも含めて指導しています。
山家先生
初読後の感想をプリントにして、みんなの思いを確認する機会も設けています。回数を重ねていくと、最初はなかなか感想を書けなかった生徒も、自分の思いを表現する力が徐々についていっています。

「吉祥読本」を使用した吉祥女子独自の国語授業

 

『吉祥読本』で学ぶことで、身についていることや強みはありますか。
渡辺先生
卒業生はジャーナリズムなど多岐の分野に亘って活躍していて、表現に長けた生徒が多いと思いますね。国語力はどの教科のベースにもなるものであり、単純に読解力が身につくという国語だけに特化したものではありません。例えば数学では問題文が読めなければ解けませんし、英語も正しい日本語を使えないと英作文がおかしくなります。様々なものとのつながりが国語の大事さだと常に心がけて、生徒たちにも伝えるようにしています。
山家先生
少し古めの文章や長めの文章に抵抗がなくなっているかと思います。また、『吉祥読本』の収録作品の作家は、本校の「読書への径」(先生方が生徒へ薦める本を紹介する冊子)の作家とも一部重なっていますから、『吉祥読本』をきっかけに読書の幅を広げていく生徒も多くいます。
渡辺先生
言葉で生きていくことを常に意識していてほしいし、その素地を少しでも身につけてもらいたいと思っています。「あれが役に立った」とはなかなかいかず、それは国語という教科の教員が感じるジレンマでもありますが、どこかで考え方の基本や日本文化、語彙力が、他の人に比べて違うと気がつくときがあれば、『吉祥読本』のような教材や本校での国語教育が役に立っていると思います。何年か後にどこかでそれに気がついてくれればいいですね。

右から、吉祥女子中学・高等学校 国語科教諭の渡辺麻里先生と山家菊世先生

 

「吉祥読本」以外の国語の学び

言葉に敏感になる意識づけ「言葉ノート」

言葉に敏感になる意識づけ「言葉ノート」言葉ノート

 

『吉祥読本』以外にも、国語力につながる取り組みはありますか。
渡辺先生
昨年から「言葉ノート」を始めました。日々気になった言葉をノートに書いていこうという試みです。歌の歌詞、友達から言われて嬉しかったことや憤りを感じた言葉、辞書で引いた言葉など、何でもいいからと言って書かせてみました。今は中学生と高校生の現代文の授業で取り入れていますが、それは評価するためではなく、言葉に敏感になってもらうという意識づけが目的です。
言葉を意識することで、言葉に敏感になるというわけですか。
渡辺先生
今はスマホやパソコンなどの液晶画面での文字に慣れてしまっています。したがって文字に接している時間は減っていませんが、活字にしてみること、自分で書いてみることが大事だと思います。
山家先生
高校1年生の「言葉ノート」を現代文担当の先生から見せていただく機会があったのですが、何気なく言った私の言葉を取り上げている生徒がいました。はっとさせられたと同時に、生徒自身も「言葉ノート」に書くことによっていろいろな発見があったんだなと感じました。
吉祥女子の国語力は、あらゆる角度から養われていくわけですね。
渡辺先生
中学入試の問題として、受験生にも読ませたい文章を選んでいるのは、本校の特徴だと思います。50分という限られた入試時間の中で、2題の長文問題を読ませます。受験後に「あの文章の続きが読みたい」と思うような文章を出したいと思いますし、実際に入学してきた生徒が「入試のあの文章に出会った」などと言ってもらえることが何よりの喜びです。有島武郎の「一房の葡萄」、山本有三「路傍の石」、新しい作品では「西の魔女が死んだ」を出題したこともあります。出題する側がいいなと思える作品や話題になった作品もたくさんありますが、問題としても成り立つ、きちんとした文章が使われている作品を選び、入試でも作品との出会いの場になればと思っています。

あらゆる角度から養われる吉祥女子の国語力

 

国語科としての今後

古典のオリジナルテキスト『吉祥読本』を制作

今後、国語科として挑戦されたいことはありますか。
渡辺先生
検定教科書の古典には訳がついていたり、採録部分が短い触りしかありません。そこで今の中学の古典では、高校生が使っている問題集の素材文を使って授業をしている状況です。今後は古典でも『吉祥読本』のようなものを作る予定です。
山家先生
国語は日々の積み重ねだと思っているので、一つひとつの授業の中での言葉遣いや表現を大切にしていきたいです。最近ではアクティブラーニングがよく取り上げられますが、本校でも一方的な授業ではなく、生徒とやり取りをしながらの授業を心掛けてきました。日々の積み重ねで表現力、相手がどう思っているかを読み取る力、コミュニケーション力などが伸びていきますから、いろいろなことを結びつけながらやっていきたいと思います。
渡辺先生
すべての根底に国語力が必要なので、教科を超えた取り組みもやってみたいと思っています。例えば、中学3年の検定教科書に安楽死をテーマにした「高瀬舟」が載っています。社会科で同時に安楽死について考えた授業があり、考察を深めるきっかけになりました。これからは教科間もボーダーレスになってきますので、そうした他の教科と連携した取り組みはやってみたいと思います。

吉祥女子中学・高等学校の国語の授業風景