2021年、海城中学高等学校に完成した新理科館「Science Center(以下サイエンスセンター)」。 “学びの教材”というコンセプトのもと建てられた理科教育の拠点では、日々の授業が行われているほか、地学、生物、物理、化学の各理系クラブが湧き出る探究心を満たすために日々活動しています。各実験や制作、飼育や研究に邁進する海城生だからこそ、充実のサイエンスセンターにも意味があると思わせる、海城理系3クラブの活動を紹介します。

CONTENTS

  • 海城生物部
  • 海城物理部
  • 海城化学部

海城生物部

  • サイエンスセンター屋上にできた温室で、昨年より飼い始めたエボシカメレオンは部員たちの人気もの。

  • 絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオを(許可を得て)飼育中。トウキョウサンショウウオの卵の数を調査しており、そのうちのひとつを研究のため飼育している。

  • 数が増えたトウキョウサンショウウオのケースをていねいに洗浄して入替中。多数飼育をすると中には死んでしまう個体もあるが、「LAMP法というDNA増殖法を使って同定するためのDNAサンプルに活用したいと思います」と、前向きな意見が飛び出した。

  • インドネシアに生息するフローレスギラハノコギリクワガタを飼育中。世界で一番大きくなる種のクワガタで、ギネス記録は121mmの大きさ。「この手触りと大きさがたまりません!」。

  • 生物部の飼育部屋では、カニ、魚、クワガタを中心に、カエルや爬虫類、昆虫類などが混在。多くの珍種が揃うのも海城の生物部の特徴だ。

  • 生物だけでなく植物も研究の対象。土を使わずに育てる水耕栽培に挑戦するチームも。興味とやる気があれば、自分1人でも研究に挑戦できる。

  • 飼育中のアオダイショウの名前はハルキ。目が合っても、扱いは手慣れたもの。飼育する生き物の世話は、愛情をもって、糞の処理まで責任をもって行うことが生物部の原則。

生き物へのあふれる愛と探究心海城・生物部

Biology Club
Member’s Interview

生物部 部長
降旗くん[高校2年]

生物との触れ合い・飼育・研究からボランティアまで!
幅広い活動が楽しい生物部

生物部の部活内容を教えてください。

降旗くん
日々の活動としては、生物の飼育が第一でそこから研究に繋げていきます。そして忘れてはいけない活動が、顧問の関口先生が里山保全活動をされていて、僕たちも埼玉県所沢市のトトロの森へ月1回行ってみんなでボランティア活動をさせてもらっています。生物部といっても幅広い活動が特徴です。

サイエンスセンターになって生物部の活動の幅が広がったことは?

降旗くん
わかりやすいのは設備の追加です。まだ運用実績はないのですが、クリーンベンチが設置されました。紫外線などで内部を無菌状態にすることができるので、他の細菌が混ざるリスクが減ります。ある細菌の純粋培養や組織や細胞の培養もできます。 また、生物部には、数え切れないほどの生き物がいますので、今回も飼育部屋がもらえたことは助かっています。屋上に温室ができたことも大きいですね。温度が一定になっているのでカメレオンなど変温動物も飼えるようになりました。飼育の幅は確実に広がったと思います。実験室のベランダも全部使えるようになったので、外で水を使って水槽などの掃除もできるようになりました。サイエンスセンターになって、生物の世話がしやすくなったことは部としては助かっています。

2022年度の文化祭で気合いを入れたことはありますか。

降旗くん
来場者によるシール投票で化学部に勝ちたかったので、どうやって生物部に来て楽しんでもらうかを考えました。クイズに答えて一定の点数以上だったらカブトムシの幼虫をプレゼントして頑張った結果、確認したところでは3187人に良かったと言ってもらえて、化学部に勝ちました(笑)。

生物部の良さ、楽しさは何でしょう?

降旗くん
研究と趣味が混ざり合ったところがある部ですから、研究に熱が入りつつも楽しく幅広く活動できます。部員はそれぞれ興味の対象が違いますが、お互いの研究を認め合いながら、ときに助け合って活動しています。中学生と高校生が一緒に活動することで、高校生が自分の経験や知識を中学生に伝えられるのも良い点です。
また、理科の生物の授業では、人体に関することが多い印象ですが、生物部では人以外の生き物について詳しく調べられます。その中の興味に対してそれぞれが探究していくのがいいですね。 それに生物部の良さは実際に本物を飼育・観察して、触れられるということ。例えば生物部には、切っても再生するプラナリアがいますが、それを知識として知っている人は多いけれど、学校の部室で実際に見たり、切ったりする機会は少ないと思うんです。そういったチャンスがとても高いクラブが生物部です。

生物部

サイエンスセンター内で飼育&観察中!

  • 1. サイエンスセンター屋上にある生物部の温室。気温や湿度の安定で飼育する生き物の幅が広がった。
  • 2. エボシカメレオンを観察するうえでの一番の楽しみは、長い舌を伸ばして生き餌を食べる迫力の瞬間を見られること。餌のコオロギも生物部で飼育。パクっと食べ終わると、部員からは一斉に「かわいい~」と声があがった。
  • 3. 舌が青いアンボンアオジタトカゲ。部員にも人気です。
  • 4. 本来は赤色のサワガニが色彩変異した青いサワガニ。今後の貴重な研究対象。
  • 5. 生物部では自由に触ることができるマダガスカルゴキブリ。

海城 物理部

  • 物理実験室にあるフライス盤。エンドミルというドリルを先端に取り付け、電源を入れるとフライス刃が回転。固定された資材を削り彫刻のように加工ができる。

  • 文化祭では、サイエンスセンター1階正面に、ダイナミックな木製の「つり橋」を半年かけて制作して設営。早くも次年度に向けて「つり橋」に滑車などを付けた「はね橋」を試作中。

  • 大久保くん(中3)が作ったのは小型冷蔵庫。電源を入れるとひやりとする本物仕様の逸品。

  • 物理部だった現高校3年の先輩が製作した「LEDキューブ」。8×8×8の合計512のLED1つあたりに最低2回のはんだ付け*作業を行っていて(1024回!)、約5年かけて作られた物理部の代表的な作品。音楽に合わせて点滅する。今年の文化祭でも展示された。
    *「はんだ」(鉛とスズを主成分とした合金)を熱で溶かして固め、電気的に接合する技術

  • Webサイト制作班は、物理部のサイトだけでなく、海城祭のサイトも担当。「多くの人に見てもらえて作り甲斐がありました!」と丹下くん。

  • LEDを点滅させるためにプログラミングした装置「Lチカ」。文化祭直前に展示物が欲しいと悩んだ末に制作。物理部員なら10分で完成!

アイデアあふれる物づくりは、僕たちに任せろ!海城物理部

Physics Club
Member’s Interview

物理部 高校副部長
小島くん[高校1年]

物理部 中学部長
丹下くん[中学3年]

やりたい制作に没頭!
科目の物理とは異なる物理部の面白さ

物理部の部活内容を教えてください。

小島くん
物理部にはレゴ班、電子工作班、プログラミング班、動画編集班、木材加工班といったたくさんの班があって、各班がそれぞれモノづくりに没頭しています。入部したらまずどういった班があるかの紹介を受け、やりたい活動の班があればその班に入班して、既にその班に入っている人と一緒に活動していきます。やりたい活動の班がなければ自分1人でもの作りをすることも、自分で班を作って人を集めて一緒にやることもできます。そうやって自由に活動できることが物理部の最大の楽しさです。皆、仲はいいですが、部全体で一緒にやる活動はそれほどなくて、基本的には1人から10人ぐらいの班で、それぞれが活動しています。
丹下くん
大抵の部活は、先輩から「こういうものを作ろう」と言われ、レールが敷かれた状態で取り組むと思うのですが、物理部は自分でやりたいことを見つけて、そのやり方や材料の手に入れ方を自分で調べてその材料を自分で手に入れて、自分で作ります。好きなことを自分が行動して作業を完結させていくのが自由で面白く夢中になれます。だから、班は増える一方です(笑)。

サイエンスセンターになって物理部の活動の幅が広がったことは?

小島くん
以前は旧理科館と呼ばれる校舎で活動していたのですが、そこには物理実験室が1つしかなくて、物理部が備品を置く場所も実験室の奥の棚の小さなスペースに限られていました。サイエンスセンターになってからは物理部専用の部室を用意してもらえたので、大きな作品を作ったり、大きめの工具を揃えたりして、活動の幅が広がっています。
丹下くん
文化祭の展示も、旧理科館は人が来にくい場所でしたが、サイエンスセンターになってからは物理実験室1と2の2つの場所を使い、それぞれで展示の仕方が異なる作品を見ていただけるようになりました。展示する作品内容も変わってきたように思います。

2022年度の文化祭での物理部の頑張りは?

小島くん
僕は特定の班には所属せずに、いろんな班を手伝いました。工具を使うのが好きなので、いろいろな班で工具が必要な時に、首を突っ込みました。物理部としては、ロボットやプログラミングなどの作品も展示しました。
丹下くん
僕はウェブサイト制作班として文化祭の公式ウェブサイト(https://kaijofes.com/)の制作を担当しました。日頃は、物理部のウェブサイトを制作して発信しています。ウェブサイト制作班としては、暗室を使って暗室ならではの彩り豊かな波を展示しました。暗室があるからこその展示も、今回の文化祭ではこだわりました。

2人が思う海城物理部の良さはなんですか。

丹下くん
海城の各クラブには顧問の先生がいらっしゃるのですが、先生がずっと監督して指導するというよりは、先輩からの指導を仰ぎながら、ほぼ自分で自由にやるのが海城のクラブ活動です。物理部だけではなく、そこは海城全体の良さだと思います。物理部は物理という科目には直接関係しないように見えますが、意外と物理とは鉛筆を転がして鉛筆がどれだけ転がるかでも物理です。物理がそういうものだからこそ、物理部はここまで自由な部活として活動できているのだと思います。今後も自由なモノづくりができる部として、多くの部員が集まってきてほしいです。
小島くん
物理部には年間の部費があって、その部費の管理も備品の購入も含めてすべて部員が行っています。先生を通さずに自立して活動することで、より自由に活動できています。学問でいう物理や学校の授業で扱うような内容を直接使うような活動はほとんどありませんが、それこそが物理部の面白さです!

物理部

サイエンスセンター内で制作中!

  • 1. サイエンスセンターの1Fには物理実験室が2教室ある。
  • 2. フライス盤で加工すれば鉄板にしっかりと文字が彫れる。
  • 3. あらゆるものが揃う物理部の机上は乱雑に見えて、部員たちはすぐに必要なものを探し出せる。
  • 4. アマチュア無線に興味ある部員が免許取得に向け勉強中。
  • 5. 物理部の部室。最初は自宅での個人制作物を途中から部活に持ち込み、班として制作することも多いため、私物が混在しがち。
  • 6. 工具の取り扱いは先輩から後輩へ…。何でも聞けて何でも話せる関係が物理部の強み!

物理部ホームページ

https://www.kaijo-physics.club/

物理部インスタグラム

https://www.instagram.com/kaijo_physics/

物理部Facebook

https://www.facebook.com/KaijoPhysicsLab/

海城化学部

  • 化学部にある複数の班からワンポット反応班のメンバーが集まり、1つのフラスコやビーカー内で起こるワンポット反応の実験を見せてくれた。

  • 過酸化水素水を使用したワンポット反応の実験。連続して起こる化学変化は、反応が予想できないこともあり、一歩下がって遠くから観察し、周囲に飛び散らないように万全の対策。その緊張感とハイテンションが化学部の楽しさ。

  • 試薬や実験器具は、使い慣れたものであれば部員判断で使用可能。普段は使わないものでも実験のために必要であれば顧問に確認をした上で許可がもらえれば用意してもらえるため、自分たちの疑問から実験を考え、試すことができる。

  • 文化祭で高い集客数を誇る実験の数々は、化学部の十八番。観客をうならせ、驚かせて、受験生には「自分もやりたい!」と思わせる実験は、毎回大人気!

  • ワンポット反応と同じように過酸化水素水を使用したゾウの歯磨き粉という実験。同じ過酸化水素水を使用した実験ではあるが、先の実験よりは穏やかな反応で、一つの作品のような反応物が出来上がった。

  • 自由に実験できる化学部だけに、事前の確認や試薬の取り扱いには細心の注意が必要。実験方法を部活内で後輩に教える意味でも、上級生は手本になるような実験を見せる。

  • 化合物が一定の時間でゆっくり変化する時計反応。山口くんが所属する時計反応班の実験は、じっくり正確にやるのがポイント。

些細な反応を示す化学実験に夢中!海城化学部

Chemistry Club
Member’s Interview

化学部 部長
山口くん[高校2年]

やりたい実験を自由にやれる化学部
先輩後輩の繋がりも強い

化学部の部活内容を教えてください。

山口くん
基本的には、部員が化学に関して疑問に思ったことを探究して実験するという活動をしています。実験ごとに班が分かれ、ワンポット反応班、銀鏡反応班、錬金班、時計反応班などの班が、今年は計8つあります。年間を通しての活動の軸は9月の文化祭ですから、まず4月に文化祭に向けての班決めを行い、9月まではその班で頑張ります。部員数は約60人で今年は中1がかなり多く、25人も入部してくれました。今日は本来の活動日ではないため参加者は少なかったのですが、普段も班で決めた活動日にそれぞれで活動するので、班によって活動日が異なります。僕は時計反応を見る「時計反応班」に所属しています。

サイエンスセンターになって化学部の活動の幅が広がったことは?

山口くん
設備が新しくなり、めずらしい器具が増えました。特に今年は前年度比で3倍ぐらい器具が増えたと思います。薬品は300種類以上あって、化学部の先輩の実験データもたくさん残っています。ドラフトチャンパーも2台ありますから、そういう意味では気持ちよく実験できる環境になったと思います。部員がやってみたいと思える実験は、大抵できています。ただ、部室がきれいになっただけに実験時はカバーを付けて壁や電気を覆うなど、汚れ防止に気を遣っています(笑)。

2022年度の文化祭での化学部の頑張りは?

山口くん
文化祭では文化祭実行委員会の総務部が、お客さんが一番良いと思った展示にシールを貼るという人気投票を行っています。各部活はそれを元に競い合っていて、化学部は5年連続で1位を取っていましたが、今年は生物部に負けてしまいました。首位転落になってしまって、とにかく悔しいです。でも、今年は高2の班長が少なめで高1の班長が中心。さらに中1の部員が多いからフォローも必要で、高1はサポートが特に大変でした。その意味では、高1がすごく頑張って引っ張ってくれたことが、文化祭ではとても良かったです。来年、頑張ってほしいです。

山口くんが思う化学部の良さは何でしょうか。

山口くん
化学部の良さは、部員がやりたい実験が自由にやれることです。安全上の理由から、中学1·2年生は先輩や顧問に許可を取ってから実験を行うことになっていますが、中3の文化祭以降は自由に実験が可能ですから、経験を積んでさらに自由に実験ができます。特に班で実験をやるときは先輩が後輩に教えますから、先輩後輩の仲が良く、繋がりも強いです。化学部全体では恒例イベントがあって、今年は夏休みに化学の基礎を中学生に教える講習を高2が行いました。学外に工場見学に行く研修もあり、そういった機会にも先輩後輩の繋がりができて良い雰囲気です。これからも化学部らしさを大切にしながら、それぞれの班で自由に探究·実験をしていきたいと思います。

化学部

サイエンスセンター内で実験中!

  • 1. サイエンスセンター3Fにある化学実験室で活動。
  • 2. 新しくきれいな実験室内での実験を行う時は、汚れや危険対策には最善を尽くす。今回は電灯をカバーで覆った。
  • 3. 化学実験室には、実験での危険な気体などを排気するドラフトチャンパーが2台設置されている。設備の充実で多様な実験に挑戦できる。
  • 4. 化学部の制服ともいえる白衣が並ぶ部室。
  • 5. 豊富に揃う実験器具。化学部の活動だけでなく、授業でも豊富に実験が行われている。
  • 6. ゾウの歯磨き粉の実験の生成物に火で文字を書く。どのような反応が起こるか、何が危険かを知っていれば、いろいろなチャレンジや遊びができる。