2018年の全国高校小倉百人一首かるた選手権大会で、団体戦全国4位に入賞した海城中学高等学校「競技かるた部」。運動部ではなくともチームで戦え、頭脳プレーも必要、そのうえ級や段を極めていくという魅力に加え、すばやく札を取り合う激しい姿は、まさにマンガや映画の世界。ただ、憧れだけでなく、日々の対戦での練習の積み重ねや高い集中力、メンタル面の鍛錬など、求められるものが多いことも特長だ。競技かるたの世界で成長を遂げていく海城生を追った。
※2018年9月18日に「全国高校小倉百人一首かるた選手権大会2018 団体戦全国4位入賞」の生徒コメントを追加しました。
CLUB ACTIVITY SCENE
PROFILE
海城中学高等学校 競技かるた部
創部 | 2010年 |
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部員数 | 33人[高3:2名、高2:4名、高1:10名、中3:4名、中2:6名、中1:7名] |
戦績 | 2016年 ・全国高校小倉百人一首かるた選手権大会東京都大会準優勝、全国大会出場 ・全国高等学校総合文化祭小倉百人一首部門東京代表 2017年 ・全国高校小倉百人一首かるた選手権大会東京都大会3位 ・全国高等学校総合文化祭小倉百人一首部門東京代表 2018年 ・全国高校小倉百人一首かるた選手権大会東京都大会準優勝、全国大会4位(団体戦) |
全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会とは…
2018年に40回を迎えた高校生の競技かるたの晴れ舞台。毎年7月に滋賀県の近江神宮で行われ、全国から50校を超える高校が参加。団体戦にはチームから5人が出場して競う。2018年大会で、海城高等学校は4位に入賞した。
http://oumijingu.org/publics/index/128/
競技かるたの試合ルール
100枚の札(小倉百人一首の下の句が書かれた札)から対戦する2人がそれぞれ25枚を無作為に選び、自分の陣地に持ち札として並べ、読み手が読んだ歌の札を取り合う。自陣の札を取れば減り、敵陣の札を取ると相手に1枚送る。自陣の札が早く0枚になった方が勝ち。場に並ばない残りの50枚も読まれるため、お手付きをしたらペナルティで相手から自陣に1枚送られる。
かるたで切磋琢磨
していくのが楽しい
― 競技かるた部への入部動機を教えてください。
林くん 海城に入ったときから部活は兼部しようと思っていて、まずはサッカー部に入り、それと一緒にやる部活を探していたんです。そんな時にたまたま友達にもらった「ちはやふる」のアニメのDVDを見たんです。札をすばやく取るのが面白そうだなと思ったことと、級がついていて上を目指せるのが楽しそうだと思って、競技かるた部に入部しました。中学では兼部していましたが、高校からはかるた部だけをやっています。
吉田くん 僕が入部したのは中学3年の6月くらいです。たまたま上野先生が古典の授業でかるた部の紹介をされたんです。体験に行ったら札を速く取ることが楽しく、もともと中学のかるた大会でも割と札を覚えていた方だったので入ってみました。上の学年も下の学年も隔たりがなく仲が良かったところも気に入りました。
伊藤くん 僕は吉田くんと一緒に中学3年のときに体験に行ったんです。でも、僕は札を全く取れなくて…。それで半年ほど帰宅部をしていたのですが、新入生がいっぱい入ってきて、初心者向けの大会もあると聞いて、それなら僕でもできるかなと思って中学3年の12月くらいに入りました。入部したらかるたで切磋琢磨していくのが楽しくて、のめり込んでいきましたね。
山里くん 僕は小学校のときに親の影響で漫画の「ちはやふる」を読んでいたので、部活紹介でかるた部に興味を持って、体験入部に行ったら面白かったんです。「ちはやふる」の描写でも札を速くとる姿がすごくかっこよく描かれていたのですが、実際に時々早く取れる札があってそれが楽しいです。先輩とも隔たりがなく、優しく指導してもらっています。
― 入部したばかりの時は何をするのですか。
吉田くん とりあえず札を覚えるところから始めます。かるたを体験するということでは、たとえば下の句が書いてあっても何かわからないけど、そこに決まり字のシールを貼っておくと札が何かわかるから、その文字を見て読まれた通りに取れば初心者でもかるたは取れるんです。それでかるたがどんなものかをまず体験します。
部室にはかるた部の心得や初心者セットが。
― 体で覚えていくんですね。競技かるたはかなり激しいですが、札を速く取るテクニックは訓練するのですか。
林くん 早く取りたいという気持ちが練習になるのかもしれません。とにかく相手より先に札に触れれば自分の“取り”になるので、やるときはそこを意識して夢中でやるしかないんです。だから、勢いがついてしまって、実際に僕も手がぶつかってはく離骨折しました。つき指をする人も多いですね。
個人の実力不足を
団体戦の声掛けで
カバーし勝利に導く
― 今年は、近江神宮での全国大会出場を決めましたが(結果、全国4位入賞)、全国大会へ行けた理由は何だったと思いますか。
林くん 対戦の組み合わせで試合の状況は変わりますが、海城は他の学校と比べて個人の実力が足りていなかったんです。そのぶんを団体戦の声掛けでカバーしようということで、強かった僕の2つ上の先輩たちを中心にOBの方々が練習に何度も来てくれて指導してくれました。それがかなり大きかったです。だからこそ全国出場できたのだと思います。
― 声掛けというのはどのように?
林くん 試合に出ている人以外は絶対に声を出したらダメなので、試合に出ている5人の中で声を掛け合うんです。自分が札を取った時に他の4人に知らせることとか、それに対して「ナイス」とか「次も取ろう」とか。あとは全員に対して「海城ファイト」とか。団体戦と言っても横に並んで個人戦をしているだけなのですが、声掛けによってどれだけ個人の力にプラスを生めるかが団体戦の面白さです。
― 団体戦で手応えを感じられるというのは部活ならではですね。
林くん 今は団体戦が楽しいのですが、1年前は他の人が自分の試合に干渉してくるのがすごく嫌で大嫌いでした(笑)。自分の相手がお手付きした時に、同じチームの仲間が間接的にあおれるんです。例えば相手がお手つきをすると、自分は「チャンス!」と言います。そこで周りが畳みかけるように「チャンス!いけるよ」みたいなことを言って、相手にダメージを与えるのですが、それが僕は好きではなく…。でも、1年間いろんな学校と練習試合をする中で、団体戦が楽しいという意識が生まれました。
― 吉田くんは全国大会出場に関して、どういう思いですか。
吉田くん たしかに海城は個人の実力が全然足りなくて、そこを団体戦だからカバーできるところもあったんです。上野先生も「団体戦が強い学校になるといいね」と言っていますし、そういう意味では団体戦で結果を残せてよかったなと思います。
― なぜ個人では弱いけれど団体なら強くなれるのでしょうか。
吉田くん みんなで支え合って声を掛け合って、個人の勝利をチームの勝利へつなげていくことができたのかなと思います。高1の部員が本番で格上の相手を倒していて、それを団体戦だからできた部分は大きかったです。共学だと女子も混ざってきますが、こちらは男子だけなのでそういう意味で団体戦は非常にやりやすいです。
伊藤くん 僕は今回苦労しました。予選直前に体育の授業で足を骨折して、練習に参加できなかったんです。ぶっつけ本番で予選だったのですが、やはりそこではチームとしての一体感が大事になりました。バラバラに5人が声を出していてもそれはただ騒いでいるだけで、チームに取ってのプラスにならないとダメなんです。そこがまだできていなかったのですが、終わった後の反省会でチームとして何をしたらいいのかをみんなで考えたことで、1週間後の最終予選で素晴らしい結果が出せました。
― ただがむしゃらに試合していくだけでは強くなれないんですね。体力も必要ですか。
林くん 体の体力というよりは、頭の体力が必要だと思います。そんなに手が激しくぶつかることばかりではないんです。相手の手が出ていても、その下から手を入れてうまく取る技術というのもA級、B級になったらついていきますから。それよりも、相手の陣を取った時に送る札を「これなら相手が嫌がるんじゃないか」とか考える力などが必要になります。
― 学校での勉強方法とかぶる部分はありますか。
伊藤くん かるたが終わった後は模試が終わった後と似ています。「集中して、ああ疲れた」となるし、勉強しているときの「ああ、もうだめだ」という感じとも一緒のような気がします。
― 中学生の山里くんは、先輩たちが団体戦で頑張っている姿を見てどうですか。
山里くん 中学生はまだ団体戦に出ていないので先輩たちのような苦労はわかりませんが、僕も高校生になったら全国大会に出場したいので、すごく刺激になります。団体戦の練習には時々参加させてもらうのですが、声掛けが未熟です。大事だということはわかるので、そういうところは先輩を見習いたいです。
進学校で貴重な
存在のクラブ
― 自分にとって海城の競技かるた部はどんな場所ですか。
山里くん 同じくらいの実力の人がたくさんいて、下の学年にも上の学年にもD級、E級の人がたくさんいるので、そういう人たちと一緒に切磋琢磨できるすごく充実した場所です。
伊藤くん 楽しい場所です。切磋琢磨できるという面白みは部活でしか味わえないことだと思うし、僕の学年は人数がそんなにいないですが、かわいい後輩と切磋琢磨できることは今貴重だなと感じています。
吉田くん 僕が高2の時は1つ上の先輩たちがいて、お手本にしていました。指導もしてくれて非常に成長できたし、彼らが引退してからの1年間は団体戦のチームとして団結してやってこられて、絆も感じられました。そんな場所ですね。
― 最後に、競技かるた部の良さを教えてください。
吉田くん たとえば運動が苦手だと思う子でも、かるた部なら大会もあって個人でも結果が出せるし、運動部みたいに一致団結してひとつの大会で勝つという目標を立てることができるので、そういう意味では運動部に近い感覚の部活です。
伊藤くん すごくフレンドリーな部活ですから、気軽に入ってもらえれば先輩たちが指導してくれるし、楽しめると思いますね。
林くん 友達が増えます。かるたの世界って結構狭いので、級が上がるといろんな練習会に行き、他校と練習することで、輪が広がって楽しいです。それに、海城みたいな私立の進学校で、こうして体を動かして全国を目指せる部活は珍しく、貴重な存在のクラブだと思います。
かるた道精神にのっとり、
所作や精神面を鍛える
国語科教員。海城赴任時、同好会だった競技かるた部の顧問になって8年目。高校時代は、全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会に連続出場を果たす強豪校、膳所高校のかるた班に所属。2018年の同大会では、母校対海城が念願の対決を果たした。
高校生にはわからないことを
大人の意見として
― 競技かるた部の顧問になって、ご自身の経験を生かせることはありましたか。
上野先生 かるたはお作法の世界なので、生徒の最初の入口としては、わかっている人がそばにいることが必要かなと思います。生徒はスポーツみたいに思っているところもあるのですが、かるた道といって大会の選手宣誓も「スポーツマンシップにのっとり」というところを「かるた道精神にのっとり」と言うんです。だから武道や茶道のように、型や所作が洗練されていくことが強さにつながっていきます。独学で強くなる生徒もいますが、ある程度は精神論的な部分が必要なところがあって、それを教えるのは強い先輩もしくは先生なのかなと思いますね。だから新入生には、所作をキレイにするところから教えます。
― 指導されるうえで、難しさもありますか。
上野先生 高校生は大人に見えますが、長い目で見ることは苦手です。例えば、試合でかるたの専門用語でいう「揉め」というのがあるのですが、どちらが先に取ったかを主張し合って譲らないんです。ただ、そこでこの試合にさえ勝てればいいと思って無理なことをすると、最後は結局自分が損をする。高校生ではそれがわからないことがあります。本当に強くなろうと思ったら、クリーンな方が強くなれるんです。それに高校生の場合、A級とD級が対戦して、個人戦だったらD級が勝つことは99・9%ないのですが、団体戦だったらあるんです。でも高校生のメンタルの弱さは彼ら自身ではわからなかったりするので、そこを大人の意見として指摘することが海城で指導者としてできることかなと思います。
他校では顧問の先生がA級6段だったりして稽古をつけていらっしゃるところもありますが、私は初段で海城の団体戦のメンバーの誰よりも弱いんです。だから自分がカバーできるところをやっている感じですね。
― 学校HPに書かれた先生のブログによると「今年のチームは強いチームではない」とのことでしたが、今年全国大会に行けた要因は何だと思われますか。
上野先生 二次予選の前まで、チームとしても個人としての力も全国に行けるレベルではなかったんです。部員同士も喧嘩になったり、意思の疎通が取れていなかったりしながら、何とか二次予選に出ました。
生徒の前で読み手を務める上野先生 でも、大会に出たことによって団体戦の良さや足りていなかったことに気がついて、二次予選が終わってからの1週間でものすごく頑張ったんです。
二次予選を見に来てくれていたOBからもすごくダメ出しされたんですが、彼らはそれを真摯に受け止めて、さらに言われたことを全部やろうとしたんですね。だから二次予選は全然よくなかったのに、最終予選の団体戦は本当によくなったんです。A級が1人しかいない、しかも高3が2人しかいない部で全国に行けたことに夢があると思います(笑)。
かるたをやったことで
人間的な成長を
― 団体になると、相乗効果を発揮できるんですね。
上野先生 それはありますね。でもそれができなくなるのも高校生なんです。団体戦は5人一斉にやって3勝したら勝ちですが、隣がボロ負けしていたら心が折れることもあるし、「俺が勝たなければ」と思って番狂わせを起こすことも高校生にはあります。それが団体戦のおもしろさでもあるし、全員が「自分が勝たなきゃ」と思って絶対にあきらめずに最後までやらなければいけないんです。
だから、生徒に「団体戦が強い海城かるた部になろう」といったのは、「自分が勝たなきゃ」と全員が思うようになってほしいからで、今年の代は最終予選でそれをやれたんだと思います。
― 団体戦を通して、部員たちが成長していく?
上野先生 そうですね。教室にいるときと団体戦のときでは全然人柄が違う部員もいて、そういうのがおもしろいなと思います。普段は見えていない人柄がかるたに出るんです。おとなしい子がすごいパワーかるたをしたり、勉強の苦手な子がすごくクレバーな知能戦みたいなかるたをしたり、いろいろ見えておもしろいんです。自分を出せる場になっているのかもしれませんね。
― いろんな大会に出て対戦をしているようですが、それは上達するうえで大切なのですか。
上野先生 大会に出ないと級も段も取れないというのが大前提なんです。でも、例えばA級になろうと思ったら7試合全部に勝たなければいけなくて、緊張感の中で7試合取ろうと思ったら大会慣れするしかないんですね。だから大会には生徒が出たがる限り、たくさん出そうと思っています。
― 部としての今後の目標はありますか。
上野先生 部としての目標はもちろん全国制覇ですが、目指すのはかるたをやったことで人間的な成長があったと思って卒業していってくれることですね。かるたは武道と同じと言ったように、本人はわかっていないかもしれませんが、それをやることで成長する部分がすごく見えるんです。
部活は何でもそうですが、特にかるたは基本的には自分との戦いになるし、うまくなる過程で必ずスランプがあります。そのつらさをそれぞれの方法で乗り越えて強くなることで、一皮剥けることがあります。団体戦もチームスポーツのように鍛えられます。そういうことを経験していくと、喧嘩ばかりしていた子が卒業する時に抱き合って泣くというような姿を見せるんです。もちろん勝ちたいけれど、最後はこのメンバーでかるたをやってよかったと思って卒業していってくれる。それが、私が目指したいところです。
全国高校小倉百人一首かるた選手権大会2018
団体戦全国4位入賞
団体戦全国4位入賞
この取材後に全国大会に出場し、団体戦4位になった海城競技かるた部。部員たちから感想コメントが届きました。
吉田くん 実は全国大会前にスランプに陥ってしまいまって、結局スランプから抜け出せないまま本番迎えることになってしまいました。でも一生に一度の高校選手権だ、楽しんで精一杯頑張ろうと気持ちを切り替えて挑みました。そうしたらなぜか絶好調でした(笑)。1年間このチームでやってきて、辛いこともあったけれども結果を残せて嬉しいです。
伊藤くん 全国大会に出場できるだけでも嬉しかったのに、まさか四位になれるとは思ってもいませんでした。団体戦メンバーだけでなく、メンバーではないにもかかわらず応援に駆けつけ、対戦相手の分析をしてくれた部員を含め、チーム一丸となって戦った結果だと思います。部員全員に感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。
林くん 全国4位。予選リーグ敗退も覚悟していたので、とても嬉しいです。これは決して運が味方したというだけではなく、戦力が劣る中でも出来る限りいい結果を残そうと積み重ねた練習の成果だと思います。この順位に満足せず、これからも「常勝の主将」としてチームを引っ張り、来年は海城らしい団体戦で金メダルを取りたいです。