3日間のキャンプの初日だけに、集まってきた生徒たちには少し緊張感が感じられた会場内。希望コースに分かれてチームごとに着席すると、まずは現代社会でのテクノロジーの活用法を紹介する映像が始まった。ITプログラミングの可能性やものづくりの喜びを感じられる内容だけに、その分野に興味を持って集まった生徒たちは興味津々。3日間で自分にできることにも期待がふくらんだかもしれない。
続いて3日間のキャンプの注意点やメンターと呼ばれるLife Is Tech!の大学生スタッフが、元気に楽しく紹介される。メンターが大きな声を出して盛り上げてくれると、生徒たちの表情も柔らかくなり、声もどんどん出てくる。チームごとにも自己紹介が行われ、プログラミングやものづくりを楽しむための時間がスタートした。
将来の夢につなげてほしい
僕が「ITプログラミングキャンプ」を応援している理由は、大きく2つあります。1つは母校への想いです。僕は大学に行きましたが、この会社が忙しくなって途中で辞めてしまったので、母校というと海城への思い入れが強いんです。
2つめは、もっとIT業界の面白さや魅力を伝えていきたいのです。20年近くこの会社をやっているなかで、IT業界がスピード感をもってダイナミックな変化を世界に起こしていることは毎年実感しています。この業界は、世界が前提であり、自分たちの手で動かしたものを世界に届けていけることに自分自身もやりがいを感じていますから、その中に身を置くことの楽しさが少しでも子どもたちに伝わればと思います。
子どもの頃に出会った職業は、将来の自分の夢にダイレクトに影響があると思いますし、中学生にエンジニアという職業やその魅力が伝われば、自分の手で世界を変えていくというような子たちが将来、海城から出てきてくれるかもしれません。やっぱり面白いという体感がないと、いくらすごい職業だと思っても自分がなろうと思わないですよね。それを中高のうちに体験できるのはいいと思います。その思いで、去年からサポートさせていただいています。
興味を持ったものを自分のものにしていくためには、小さな一歩の勇気だと思っています。今回のキャンプもお父さんやお母さんに、「行きたいんだ」という一言が言えるか言えないかだと思うんですよ。その一言が言えれば、自分が遊んだことがあるかもしれないゲームを作っている会社で、プログラミングを勉強していくという機会が得られます。それが、かけがえのない機会になる可能性もあると思うんです。だから、ほんとうに一歩踏み出す勇気を持ってほしいです。
海城は、僕が入学する前ぐらいに学校改革が始まったので、学校ではこういう機会はまだなかったですが、先生たちは東大に行って政治家や官僚になるのがすべてではないという考え方で、僕がベンチャー企業のイベントに行って「こういうことがやりたいんだ」と言った時に、「やってみればいいじゃないか」と後押しをしてくれました。それは今の自分につながっています。
プログラミングは、言語と一緒で若いうちにやればやるほど早く修得できますし、拒否反応も少なくできます。今回のキャンプの参加者もほとんどが中学生ですから、それはすごくいいことだと思います。毎年、もっと多くの人が参加してくれたらいいなと思いますし、そこに対してサポートできることはしていきたいです。
Life Is Tech!のキャンプでは、作業を「開発」と呼ぶそうだ。チームは、「iPhoneアプリ」「Androidアプリ」「Unityゲーム」「Webデザイン」「デザイナー」「映像制作」「デジタルミュージック」「LINEスタンプ」の8つに分かれ、それぞれが自分の興味あることを形にするために目標に向かって開発を始めた。パソコンは1人1台。使い慣れない生徒もいて戸惑う姿もあったが、そこはメンターが的確にフォロー。不安を感じる様子はなく、チームメイトと話をしたり、メンターに質問したりできる明るい開発の場で、生徒たちは夢中になっていた。
形になるものを作れることは大きな刺激
今回の「IT・プログラミングキャンプ」は、44名の参加で高校生が8名、中学生が36名です。人気のコースは、iPhoneアプリやUnityゲームのコースですね。初開催である去年は中1から高2まで144人の参加でしたが、今年は中1の学校行事と重なり、募集対象を中2から高2にしました。
3日間のキャンプでそれぞれが形になるものを作れるようにはなることは大きな刺激だと思いますし、OBであるドリコムの内藤さんの講演会があるので、実際にテクノロジーを使って起業された方のお話を聞けることも生徒たちにとっては貴重な機会だと思います。実はアプリを作ることは、最初のハードルが高いんです。でも、一度でも触ったことがあれば、その後につながると思いますから、まずは触る機会として今回の経験を活かしてほしいですね。
校内では、KSプロジェクトとして「プログラミング講座」を通年で実施しています。中2から参加できるもので、オリジナルのアプリを作ることが最終のゴールです。アプリは、自分が作りたいと思ったものなら、ゲーム的なものでも、何か困っているものを解決するようなものでも特に決まりはありません。「プログラミング講座」では、創造力を思う存分発揮してほしいですね。加えて、よく言われているような論理的思考力や課題解決能力も身につけてもらいたいと思っています。
「プログラミング講座」は、やりたいと思った生徒が自ら集まっているので、お互いに刺激し合うこともできています。例えば文化祭実行委員が文化祭用のアプリを作っていたのですが、その後継者がいない問題が起こり、昨年の制作に関わった生徒が「プログラミング講座」を受講している生徒に声をかけ、先輩に丁寧に教えてもらいながら開発をしています。同じことに興味をもった縦の繋がりは、生徒達の主体的な学びをする環境においては非常に重要だと実感しました。やりたいという気持ちが根本にあるので、いろんなところで応用がきくようになってきています。
その機会がIT・プログラミングキャンプ
多くの生徒は、既存のアプリを使うだけで、自分で制作できる可能性があることや、リリースするまでの過程のイメージを全く想像していないと思うんです。「IT・プログラミングキャンプ」で、機能を組み合わせたりデザインをしたりする工程を踏めばリリースまでできるんだということを何となくでもつかめたら、あとは生徒が自分自身で工夫できます。去年もこのキャンプをきっかけに「アプリを作ってみた!」という生徒が実際にいました。
KSプロジェクトの「プログラミング講座」では自分が企画するアプリを制作する自由課題があります。まず自分が本当に作りたいものは何なのかを深掘りすることや、どのような手順や方法なら完成することができるかを考える過程がありますので、そこで成長が見込めると思っています。本校のOBで、大学生が大学生に教えるプログラミングスクールを設立した方がいます。このスクールはアプリをリリースできないと卒業できません。プログラミング講座では、このスクールを卒業し、実際にアプリをリリースした経験をもつ大学生のメンターに数人来てもらっています。そのため、生徒たちは、教員が教えるよりもちゃんと聞いていますね(笑)。
今、プログラミングスキルは上がってきていますが、UIやグラフィックのデザインスキルや社会を俯瞰的に捉える能力が絶対的に足りていない状況です。「こういう類似サービスはすでにリリースされていて新規性がない」とか、「そのアプローチでは課題解決になっていない」と話すことも多いので、社会実装できるレベルのアプリまで作り込んでほしいと思っています。
「こうやればいいんだ!」「自分にもできた」といった手応えも、「どうしてこうなるんですか?」「うまくいかないんです」といった疑問や試行錯誤も、実際にプログラミングやものづくりをしないとわからないこと。生徒たちは、夢中になって画面に向かいながら、着実に自分の可能性を広げていた。この3日間の体験で、次のチャンスにも手を伸ばしやすいに違いない。
新しい世界を広げてほしい
Life Is Tech!は、全国の中高生に向けてITプログラミング教育をしています。今回は、学校とLife Is Tech!のコラボで、海城生のみ参加の3日間8コースです。
キャンプでは、非日常感を演出することを意識していて、学校でもない、塾でもない、今まで出会ったことがない特別な楽しい場所であることを大事にしています。6人のグループに1人のメンターがいて、より良い関係性を作って距離を近づけるためにあだ名で呼び合います。メンターには、いろんな大学の人がいますね。プログラミングなどを学んでいるとは限らず、文理も関係ありません。人と人の関係性を一番大事にしています。
中高生にはこれからITスキルが絶対に必要になってきます。ITは目的ではなく、これからみんなが成長して将来を豊かにするためのツールの1つ。ITでのものづくりを通して自分で何か作った経験をして、将来の可能性を広げてほしいですね。