2017年1月に発足。SDGsについて学び、行動し、ワークショップの開発やシンポジウムなどに参加する活動後、2019年度からは日本の今の課題を知り、将来をイマジネーションする「イマ・ゼミ!~SDGsを越えろ~」に進化。男子校だからこそできるジェンダー意識向上のための啓発活動を行うジェンダー班、象牙問題を考えるワークショップ教材を開発する象牙班、海の漁業資源の問題について考えるワークショップ教材を開発した寿司ゲーム班、各地の災害や復興のボランティアに参加する災害ボランティア班が活動中。
雑魚寝状態の体育館での健康面の課題は何か。
その予防に向けて採るべき解決手段の方法の候補を並べ、選択し、実装せよ。
その際、予想される避難民の反発等の混乱も想定し、その解消法も併せて考えよ。
理科教諭 関口伸一先生
問題に向き合い続ける力を養う
世の中には解決できない問題がたくさんあります。例えば戦争の被害にあった方、公害にあった方、先の原発事故にあった方など、苦しんでいる方がいる限り「解決した」という線引きはできない。放射能が問題であればそれを除去する対策は必要ですが、一方で苦しんでいる人がいるならば寄り添い続けられることこそ重要になってきます。そうした社会の課題に向き合う力、問題に向き合い続ける力を育てたいという思いが一番強いです。
生徒が向き合いたい課題にフォーカスしていろいろやっています。まずは向き合うために課題を知ることから始めます。 現地に出向きその課題は何が問題になっているのか、苦しんでいる人たちがどういう思いなのかを知る。そして、問題解決に向けて頑張っている人から刺激を受けて、「この問題をもっと世の中の人に知ってもらい、意識を変えるためにこういうイベントをしてみよう」とか、「こういう問題解決方法なら自分にもできるからやってみよう」ということを見つけて、課題に向き合ってもらいたいと思っています。
体験は、その場所に行ったことでいろいろな空気感を感じるので、課題解決の動機付けになります。ただ、自身の体験で見知ったことだけが“絶対“ではない。「こういう苦労があったんだな」と気づいたとしても、それが問題解決のうえで本当に必要なのか。客観性を持たせるためには、他の資料にあたることや専門家に聞くことも大切になってきます。
現場では、正しい情報や科学的根拠に基づいて話ができて、動けなければいけない。個人の価値判断だけでやった時の危険性はとても高いんです。判断する場合はいろいろな意見を募り、自分の意見が正しいのか客観的な情報で捉えることが大切です。直感が大事な時もありますが、それだけではないことも知ってもらいたいです。
目を向けるべきじゃないか
最初に SDGsをやるようになったきっかけは、僕がボルネオに行ったことでした。熱帯雨林を見に行ったら、アブラヤシ・プランテーションが広がり、熱帯雨林がどんどん減っていることを知ったんです。 もともと私は生徒たちを連れて環境保全のボランティアもやっていましたので、どうやったら熱帯雨林を守れるのかと考えたんです。でも、アブラヤシ・プランテーションから作られるパーム油は私たちの生活に植物油脂という形で入って広まっている。パーム油が売れると国は経済的には潤うわけで、その意味では現地の人の生活もあるし、国の発展もあるので、全体で考えなければいけないと思ったんです。 生徒たちも、自分たちの食生活が熱帯雨林の減少につながっていることを伝えるためにシンポジウムを企画したり、いろいろなイベントもやり、それらをSDGsと関連付けていたのですが、ただ啓発活動をするだけで人が本当に変わるのかと考えだしたんですね。
生徒たちからも、「自己満足で終わっているのではないか」という声が出てきました。「SDGsの提案はほとんどが先進国的な考え方で、発展途上国は今のまま持続されたら困る」「SDGsは一つの価値観への収束ではないか、それはちょっとおかしいのでは?」と。それだったらSDGsに捉われることなく、もっと身近にあるいろいろな問題に目を向けるべきだと考え、今に至っています。今あることをきちんと知り、未来をイマジネーションするという意味から「イマ・ゼミ!」になりました。
いろいろな社会課題が知りたいという気持ちが強く、社会のために活躍したい、自分を変えたいと思っている生徒が多いですね。災害ボランティアの場合は、一度参加すると自分の活動幅やボランティアの大切さがよくわかるようで、必ずまた行きます。外部の人たちとつながることで刺激を受け、そこから成長していくようです。
それに取り組み続けることが大切
災害ボランティア班なら、彼らの作ったワークショップを体験した他校の生徒が実際にボランティアに行くようになったとか、避難所の中でロールプレイをやって救われたという人が出てきてくれれば嬉しいですね。実際に行動してくれる人が増えるような教材を作って広めていきたいです。
生徒に任せた方がはるかに良いものができると思っています。教員は環境整備や論点の整理をしていくだけでいいですね。彼らはすごく能力を持っているので、そうすれば独自なものができると思います。 反対に課題としては、生徒たちは模範解答を求めがちです。解答が与えられればそれを解くために大事なことを見出す能力はあるのですが、本当に大事なことは答えがない世の中のさまざまな課題に取り組み続けることなんです。闇雲に取り組むのではなく、根拠に基づきながら取り組む。そのことを大事にしてほしいですね。