清泉音楽部
顧問インタビュー
高校音楽部特別顧問 指揮 佐藤美紀子先生
清泉音楽部指揮者として27年。2010年より卒業生が集まるLa Pura Fuente、2023年より音楽部の保護者を中心としたLa Serena Fuente も指導。清泉音楽部のOGでもあり、2024年度まで理科の授業を担当していた。
清泉女学院生であることに誇りとプライドを
清泉女学院音楽部の指揮者になって27年になります。恩師である堀部先生のもと、顧問として活動を始めた40年前は、今のようにコンクールで活躍するような部ではなく、ミュージカルに興味を持って入部してくる生徒がほとんどでした。
私の担当教科は理科(生物)で、森林を中心としたエコロジーが専門です。新任のころは自然保護教育に力を入れ清泉の野外実習の構築に力を注ぎ、NASAの地球環境観測プログラム「Globe第1期校」に応募し選抜される機会にも恵まれました。当時、学校教育の場では先進的なインターネットを使いNASAに観測データを送ったり、世界の資料を用いて環境問題について発表の場に参加したり、当時のニュースで話題になることもあり生徒たちは自信を持つようになりました。その姿を見て、「自己肯定感が成長の原動力になる」と強く感じました。(当時、新設されたコンピューター教室で力を発揮していた生徒の一人が、佐々尾先生です)
そこで、前任の堀部先生より託された音楽部でも「神奈川県外の大会に出ていく過程で、学校にも自分にも自信とプライドを持てる生徒になってほしい」と考えました。当時の清泉にはカトリックのお嬢様校のようなイメージはありましたが、生徒たちはどこか自分たちに自信がないように見えたので、清泉生としてのプライドと誇りをもって歌い、自信をつけて成長してほしいと思ったのです。
まずは中学音楽部の指導を始めたところ、初年度から関東大会に出場、3年目には金賞、5年目には全国大会まで進むことができました。6年目には高校音楽部がコンクールにチャレンジを始め、中高ともに全日本合唱コンクール、NHK全国学校音楽コンクール全国大会に連続出場、国際合唱コンクールからの招聘もいただける団体へと成長しました。合唱を通じて生徒の心の成長を実現していくという「心の情操教育」を部活動の目的とし、今に続く清泉音楽部の基盤ができていきました。
心を通わせた透明な歌声で幸せの光を届ける
目的を実現するために、まず基本となる3つの柱を立てました。1つ目は、自分たちの未来を見つめように、斜め四十五度上向きの凛とした姿勢を意識して歌うこと。2つ目が、隣の人の声が聞こえるような透明な響きの声を出すこと。油絵ではなく水彩画のようなイメージで、隣の人の息遣いや声を聞いてお互いの心を通い合わせながら歌うことは、合唱にとって大事なことであり、それが“心の情操教育”にもなります。3つ目は、聞いてくださる方に幸せの光をお届けできるような表現を目指すこと。表現者としての私たちは自己満足にとどまらず、情景や心情を伝えることによって感動していただける演奏をしたいと思っています。そして、何よりも心掛けていることは、子どもたちの成長につながるような曲、そして将来、辛いことがあった時にふと口ずさんで気持ちが明るくなるような曲、希望と愛が身体に浸透していくような曲を、数多く歌っていくことです。
目指すのは天から降ってくる天使の声
ただ、この3つの柱を形にするには、相当な技術が必要です。まず、音楽ですから音が美しくなくてはいけません。そこで私が目指したのは、ヨーロッパの教会で聞いた天使の声。天から降ってくるように響いて、空間を揺らす“倍音”の世界です。声を聞いた時に「合唱はこれだ」と思いました。その“倍音”を出すための基礎トレーニング(脱力→発声→筋トレ→脳トレ→耳トレ)を考案して練習で続けるうちに、ホール全体の空気が響き、多様な表現ができるようになりました。多くの人が私と同じように心に響く合唱を求めていると確信しました。
世界の人々と共に歌い、平和を祈ることが今の音楽部の目標
西洋音楽、そして合唱はもともと教会音楽が原点なので、ヨーロッパの乾いた空気の教会の中で、その響きを味わってほしいと思い、国際合唱コンクールに約3年に1回参加しています。今の音楽部の目標は、世界の人々と共に歌い、平和を祈ること。私たちは小さな存在かもしれませんが、共に心を寄せ合い共感することで、世界を平和に導く確かな力が生まれると信じています。その思いが合唱において、とても大事なのです。「みんなに幸せになってもらおう」「みんなで平和を祈ろう」という気持ちで歌うからこそ、多くの人が涙を流して感動し、観客全員からのスタンディングオべーションをいただけたのだと思います。
さらに合唱において大切なのは、音の美しさだけではありません。言葉の色や情景をどう描くか。それが聞く人の心を動かします。そこでもまた技術を求められますが、部員の人数が少なくなった今は、一人ひとりが責任を持って自分の声と向き合い、自分のパートのことを考えて歌ってほしいと伝えています。合唱は独りで完結するものではなく、互いの声を聞き合って初めて成り立つ音楽です。ソリストではないので、自分を前面に出すよりは、人の声を聞くことが大切です。周りを思いやり、想像する力を持たないと、合唱でも音楽でもなくなってしまいます。
2019年リガ(ラトビア)で行われた国際コンクールの宗教曲部門
上昇志向がありながらも、根っから優しくひたむきな清泉生
音楽部で大切なのは、実際に歌えるか、歌えないか。私がいくら理想を求め、学校がどれだけ期待しても、歌う側の生徒も情熱がないと成り立たないのが合唱です。そして私が理想とする“倍音”の世界を生徒に伝え、表現していくためには、厳しさも必要です。
パートによって声の響きのベクトルや質が異なり、それを1つに集めるのが合唱。生徒の耳の感覚には個人差があり、地道な訓練も欠かせません。でも、最初は皆が初心者ですから、歌が好きならば、仲間と一緒に歩んでいけます。特に本校は、カトリック校として愛と希望の精神を育て、彼女たちはお互いを思いやる気持ちを持っていますから、心ひとつに歌う合唱に適性があります。上昇志向がありながらも、人として根っから優しく、ひたむきです。良い意味での従順さも、すくすくと成長する一つの要因でしょう。そうした学校の風土や生徒の個性も、音楽部を育てるうえで非常にマッチしていたと思います。
これまでの指導を通して、生徒たちの成長には何度も心を動かされてきました。歌だけでなく、姿勢や礼儀、互いを思いやる優しい心、学外でのマナーや集団行動、パフォーマンス能力と計画力、そのすべてが合唱活動を通して育っていくと感じさせられます。中学ではまだ幼かった生徒が、高校に上がる頃には精神的に強くなり、身近な周囲の人に安らぎと笑顔をもたらすことができるようになります。お互いの想いをぶつけ合い、共通の目標に向けて努力し、達成感を得たその結果、大きく成長していく生徒たちの姿を見ることが私の喜びです。
2025年ブダペスト(ハンガリー)で行われた国際コンクールのグランプリ選
卒業後の活動は、生徒たちのさらに高い目標に
『La Pura Fuente』のようなOG団体を作ることは、最初から考えていました。卒業後を見せることで、生徒たちに合唱にとどまらず人間としての生き方について、さらに高い目標を持たせたいと思ったのです。以前にも卒業生が「自分たちも歌いたい」と集まったことがありましたが、3度目の機会となった『La Pura Fuente』でようやく継続的な形になりました。当初は一般団体としては高校生気分が抜けず心配な面もありましたが、今は社会人になった団員も多く安心して運営の大部分を任せています。日本のコンクールでも全国大会9年連続金賞、合唱界でも温かな透明感のある歌声が人気の女声合唱団となり、レコーディングの依頼、国際合唱コンクールからの招聘、新曲発表など、多方面で活躍が期待されています。
今後については、カトリック校の合唱団としてヨーロッパの現代宗教音楽を広めていくという最大の目標があります。また、最近では日本の作曲家の先生から新しい宗教曲を託されることも増えています。今日練習していた「Lauda Sion」もですが、邦人作曲家の宗教曲を海外に届けることも私たちのミッションの一つとして、清泉ファミリー皆で楽しみながら、心合わせて歌っていきたいと思います。
中学音楽部顧問 指揮 佐々尾優佳先生
清泉女学院音楽部顧問。清泉音楽部のOGで、活動を通して合唱に魅了され、高校卒業後、音大入学と同時に一般合唱団に入団。その他、声楽アンサンブルの活動や、La Pura Fuenteで歌っていた時期も。担当教科は音楽と情報。2021年より本格的に中1の指導をはじめ、2023年に中学音楽部の指揮者に就任。
在籍時とは活動形態が異なる音楽部で指導
卒業から7年後、非常勤講師として母校に戻ってきた際、数回ではありましたが、低学年の生徒のボイストレーニングの依頼を受けました。私がいた頃と全く違う世界になっていた音楽部に、「私に指導できることはあるのだろうか」という疑問を抱えながら携わっていたのを覚えています。その年に、全国大会で初めて金賞を受賞。輝かしい功績の報告を聴くたびに、音楽部が自分の中から遠い存在になっていくように感じた時期でもありました。
専任採用後は他部活の顧問に配属。音楽部とは少し離れた環境にいましたが、佐藤先生の指導で合唱をしたいという思いから、最年長として、La Pura Fuenteに迎え入れていただいたものの、すぐに第一子を妊娠。体調も優れず、舞台に立ったのは1回だけでした。その後、5年間は他部活と兼任という形で音楽部顧問をしていたものの、兼任という立場もあって、逃げ腰になっていたように思います。中学1年生のボイストレーニングには携わっていましたが、発声の方向性が佐藤先生が求められているものとは違うのではという不安もありました。母校に戻ってきてから15年目、3度目の育休復帰のタイミングで音楽部専任の顧問となり、ここから本格的に腰を据えて音楽部の指導に携わるようになりました。
この年は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で「ソーシャルディスタンス」という言葉が町中に溢れていた頃。大人数での練習は物理的に難しいこともあり、中学1年生は上級生とは別活動をすることになり、この指導を全面的に任せていただくことになりました。授業の中では歌うことすら許されない中で、中学1年生と共に、感染症対策のために屋外で練習をしていたことを懐かしく思い出します。佐藤先生のお誘いもあり、冬にはヴォーカルアンサンブルコンテストに出演することに。私も含めて、出演者全員が初舞台。中学1年生だけでの出場でしたが気負うこともなく、とにかく楽しく歌えればそれで!という思いで立った舞台でした。想定外にも金賞をいただき、関東大会にも出場。初年度から多くの経験を踏ませていただけたのはありがたかったです。その後、共に初舞台を踏んだ学年が中学3年生になるタイミングで、中学音楽部の指導者交代のお話をいただきました。当時は、私の子どももまだ小さかったので正直迷いもありましたが、中高2団体の指導をされる佐藤先生の労力は並大抵ではなく、体力的なご負担も案じていたので、いつまでもご健康で長く指導を続けていただくには、これ以上のご負担はかけられないとも考えました。この手で音楽部の歴史を崩してしまうのではという恐怖をずっと抱えていた私に、「佐々尾先生なら大丈夫だよ!先生の音楽をすればいい!」と当時、音楽部で共に顧問をしていた同僚から背中を押してもらえたこともあり、覚悟を決めました。とはいえ、引継ぐのは自分が在部していた頃とは全く違う、全国レベルに成長した音楽部。荷が重いと感じた部分も多くありました。
リンク:佐々尾先生の「先生に聞こう」
音楽を通して真の意味での絆を築いてほしい
私が生徒の頃は、夏の県大会が終わればコンクール活動はひと段落。高校時代は出場すらしていませんでしたので、コンクールは未知の世界。引き継ぐからには同じような指導がしたいと思っても、OGとはいえ、生徒時代、直接佐藤先生の合唱指導を受けなかった唯一の学年で、佐藤先生に合唱を教わった経験もあまりありません。生徒たちのほうが佐藤先生の指導をよく理解していると強く感じていたので、初年度は、佐藤先生の指導を直に受けた生徒たちを頼りに、手探りで指導をしていました。
その中で、私が大切にしようと思ったのは、生徒たちが音楽を通して真の意味での絆を築くこと。そして、音楽を通して心を育むこと。音楽部は昔から先輩後輩の仲が良く、私自身も一生のかけがえのない仲間を得ることができました。自然な縦のつながりは、清泉音楽部の良さだと感じていますので、生徒たちにも、絆をこの部活で育んでほしいと願っています。前任の堀部先生が大切にされていた「音楽は心」という教えが、現在の私の指導の基盤になっているようにも思います。
互いに伝えるべきことはしっかりと伝え合い、その上で家族や姉妹のような温かさをもった関係を築いていけると理想的かなと。指導の中では、時に厳しい言葉を使うこともありますが、音楽は、心が通い合ってこそ成り立つもの。気持ちが通じ合っていれば、厳しい言葉もきっと届くはずだと信じています。そのうえで、生徒たちが「私はここで歌っていいんだ」と安心できる場所が、清泉音楽部でありたいです。
生徒たちと音楽そのものを心から楽しむステージ
私にとって最も幸せな時間は、ステージ上で指揮をしているときです。どのような時でも、その日のベストを尽くして演奏をするように心がけていますが、同じ曲でも場数をふみ上位大会に進むと、生徒たちも次第に自信がついてくるのか、どんどん輝きを増した表情になっていきます。また、演奏が成熟していくにつれて、音楽の中に安心感と一体感が生まれてきますし、大会本番の表現しがたい緊張感の中で、これまでに感じたことのない感動的な音楽が生徒たちから湧き出る瞬間があって、共に舞台に立てる喜びをかみしめながら、音楽そのものを心から楽しませてもらっています。
そんな私ですが、「清泉サウンドとは何か」と問われると、まだ明確な答えは見えず…。佐藤先生は、音楽作りも魅力的なのですが、音作りも本当に魅力的で、作り出される音そのものがとても感動的です。でも、佐藤先生と同じ音を目指そうとしても、なかなか同じ音にはならなくて。「あの音に近づきたい」という思いは常に抱きながら、自分なりの「清泉サウンド」を模索しているところです。
技術を磨いた先にある特別な瞬間を感じてほしい
音楽において「楽しさ」は非常に大切ですが、楽しむだけではたどり着けない世界があり、技術を身につけた先にのみ生まれるものが必ずあると思います。最初は声が出なかったり、音が乱れていたりしますが、練習を続けていくと、今まで聞こえなかった美しい声が出るようになり、美しいハーモニーが鳴り始める瞬間があります。その過程をひたすら重ねていくと、生徒たちの歌声にどんどん変化が出てきて、歌うことそのものの中で、本当の意味での楽しさや喜びを実感できるようになっていきます。こうした鍛錬の先にある、本当の意味での楽しさや技術を磨くことの真髄で生まれる世界は、佐藤先生が長年にわたって音楽部の指導の中で築き上げてくださったもの。中学生が作り出す世界に、私も毎回、感動させてもらっています。
毎日祈りを捧げている生徒たちだからこそ歌える宗教曲
中学音楽部の指導においては、より具体的に伝えることを意識しています。たとえば、抽象的に「もっとハッキリ」と伝えても、なかなか中学生には理解できないことも。そのため、歌う際の発声のプロセスや、表現を豊かにするための具体的な所作を、一つ一つ丁寧に噛み砕いて説明し、ノウハウを細かく指導することを特に意識しています。
選曲は、その年の最高学年の生徒と相談しながら決めていきますが、宗教曲に触れる機会は必ず設けるようにしたいと思っていますし、生徒も、先輩が歌う姿を見ていますので、自然と候補に宗教曲があがってきます。私は幼いころに洗礼を受けて、常にキリスト教の教えが傍らにある環境で育ったのですが、中高時代は、祈りから背を向けていた時期がありました。本校では毎日必ず祈りの時間がありますが、多感な時期にある中学生の中には、昔の私のように「祈り」や「神」に対して懐疑的になったり、斜に構えたりする様子も見受けられます。そんな時期だからこそ、歌を通して自然と心の中にある“神”の存在を感じ、その精神性を素直に受け入れるきっかけが作れるのではないかと考えています。ミッションスクールの教員として、音楽を通して祈りの本質を伝えていくことは深い意義があると思いますし、生徒たちの中に祈りが日常の習慣として溶け込んでいるからこそ、自己の利益の追求ではなく、他者のために尽くす心、そして、その祈りの中にこめられた思いが表現できるのかなと。それが、本校ならではの歌声につながっていくのではないかと思います。
より良い音楽を作りたい
その真摯な思いが清泉音楽部の誇り
私が清泉音楽部を誇りに思うのは、生徒たちが純粋に音楽を楽しみながら、共により良い音楽を作りたい、という思いを持って活動していることです。コンクールは技術の研鑽を目的として出場していますが、「賞」は最終目標ではありません。音楽の演奏そのものを深め、音楽を通して心を表現すること。目先の結果にとどまらずに、高い目的意識を持ちながら活動を続けられるのは、先輩である高校生やOG団体『La Pura Fuente』の存在が生徒たちにとって憧れの存在であり、常に目指すべき方向性を示してくれているから。お手本となる存在があることで、「そこに近づきたい」「良い演奏をしたい」という強い気持ちが生まれ、その思いが他者への思いやりとなって、周りの心に耳を傾け協調性に富む音楽づくりにつながっていきます。「先輩のように歌いたい」という思いを胸に音楽と真摯に向き合うその姿と温かい思いやりの心、それこそが清泉音楽部の何より誇れるところだと感じています。
今後は、生徒達の心をより豊かに育てていけるように、短い期間で質の高い演奏に導けるよう、指導力を高めていきたいと思っています。佐藤先生が、四半世紀以上をかけて築き上げてこられた経験と技術を近くで学びながら、いつまでも音楽の力で平和の光が広がり続けるように、清泉の音楽を受け継ぎ、この伝統と精神性を大切にしていきたいと思っています。
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