1日目の冒頭に、日本工業大学の中村明教授のSDGsについての講演会を拝聴した生徒たち。その後、SDGsの17の目標から自身で選んだテーマによって4〜6人の班に分かれ、56のグループになって探究学習を進めていきました。同じSDGsの目標であっても、調べ学習やディスカッションを行っていくなかで、視点も課題も解決策も提案も全く違うものになっていることが興味深いです。
すべての人に健康と福祉を
多くの企業が感染症対策や治療に取り組んでいることがわかったのですが、感染症が収まったその先を考えることが難しいようです。そこで考えた私達の提案の1つは、大型病院を作ること。例えばウガンダとアンゴラの内戦が終わったので、そこに大型病院を建て他国からも来られるようにします。日本からは医師団を派遣し、医療費を抑えるために日本のジェネリック薬の使用も提案します。戦争中だと不安要素が多く、調べるほどに課題が見えてきました。
ジェンダー平等を実現しよう
私たちは貧困国に施設を寄付してICT技術を使った教育を行うということを提案します。貧困国でのジェンダー平等を解決しようと思ったら、女性が家事などの生活労働に縛られている現状が見えてきました。そこで現地の日本の会社が施設を作り、IT情報や技術、英語を学ぶと同時に、社宅や託児所も併設してもっと自由に働く場を作れないかと考えました。
SDGsの目標ごとに4〜5人に分かれて発表用のポスターやパワーポイントなどのスライド(翌週のクラス発表で使用)を制作する生徒たち。掘り下げた提案内容を最後まで話し合ったり、伝わりやすい見せ方を工夫したりと、各班で熱心に取り組んでいました。
いくつかの班に、SDGsの目標に沿って調べたことや提案内容を聞いてみると、目標を「どうにかしたい」という強い思いが伝わる具体的話が聞けました。
人や国の不平等をなくそう
障害や年齢による雇用の差別をなくすことをテーマに調べました。このテーマに興味を持ったのは、人種や性別の雇用差別についてはよく取り上げられていますが、障害や年齢による雇用差別は具体的な事例をあまり聞いたことがなかったからです。調べたところ、機能していない理由があり、その解決策として専用施設の建設を提案しようと思っています。
住み続けられるまちづくりを
住み続けられるまちづくりを目指すために、都市から地方に人を分散させて、さらにそこで人々が暮らしやすい環境を整えた街づくりをしていこうと考えました。提案としては、移動販売車の活用、コミュニティガーデンづくり、路面電車を走らせることです。11番の目標は幅広さを持っているので方向性を絞り込み、具体案を出すように注意しながら話し合いました。
完成したポスターをもとに各班がSDGsの目標ごとに考えた内容を発表します。10分程度の発表を細分化せずに1人が責任を持って発表するのが今回の試み。自分の想いを込めやすいのか、「ここをどうにかしたいと思った」「こういうふうに行動したら世界は変わるのでは?」という熱いプレゼンテーションがあちこちで見られました。同じSDGsの目標でも視点や提案はさまざま。そこに生徒の努力や感性が感じられます。この取り組みがまた次の探究活動に繋がっていくのでしょう。
日本工業大学 専門職大学院 教授
中村 明先生
中学生の問題意識に驚き
この有益な活動から次へのアクションを
私は大学院でSDGsの教育に関わっていて、今回は外部講師として参加させてもらいました。
SDGsとはもともと国際社会の問題を考えている人が中心に動いてきたものですが、実は全世界のすべての世代の人が考えて取り組むテーマだと思うんですね。そしてSDGsは、中学生であってもアクションをとっていくことが実は重要だと思うんです。したがって勉強として学ぶと同時に自分の行動につなげるという意味で、講義を聞いてもらってから自分たちで何をやればいいのかと考えをまとめていくことはとても素晴らしく、社会にとっても有益な活動だと思います。こういうことからSDGsの目標が広がっていくのです。
今回、希望をとって何を研究するかを決めたようですが、発表の内容を見ていると、中学生でここまで問題意識を持てるのかと思うほどきちんと整理されていました。そういう意味ではこうした活動によって中学生でもしっかり問題意識が持て、それを少し深く掘り下げられるヒントを与えることによって、大人に向かうにつれてさらに問題意識や行動が広がっていくだろうと思いました。
豊島岡女子学園の良さは講義を聞くだけで終わらず、それに対してどう思うかをグループワークによるフィードバックとしてしっかりと行うところです。皆さんを見ていると、我々がどういうことをやればSDGsがもっと発展するだろうということがすごく観察でき、我々にとっても学びになりました。これはそれだけ価値のある取り組みだと思います。
SDGsは学ぶだけでは達成できません。みんなができることをやるのが大切です。自分たちでもできることは何なのか?を考えることに大きな意味があります。社会というのはみんなのもの。つまり社会のいろんな活動に参加していく、あるいは社会を作る意思決定に参加するということが重要です。SDGsは「leave no one behind - 誰一人取り残さない」ということを理念にしていますが、それを実現するためにはいろんな考えの人が社会活動に参加していくことが重要です。豊島岡の皆さんにも今回学んだ結果にアクションをとる、つまりは参加していくことにつなげてもらえたら嬉しいです。
豊島岡女子学園中学校 中学3年学年主任
山下 文子先生
やりたいテーマを選び意欲的な学びを
問題意識をもって将来につなげるきっかけに
今回、17あるSDGsの目標から、生徒にやりたいと思うテーマを自分で選ばせて、16のSDGs目標に取り組みました。グループワークは、テーマもメンバーも機械的に組む方が楽なのですが、生徒の第2希望までには入るように調整、生徒自身がやりたいテーマになるように設定しました。そうすることで生徒のやる気を引き起こし、自分たちで意欲的な学びができるかなと考えたのです。その結果、しっかりと問題意識を持ち、積極的に取り組んでいると感じています。希望を優先したのでクラスを超えた班もありますが、同じものに興味を持った生徒が集まって意見を出し合いコミュニケーションをとりながら進めていくことも一つの大きな学びです。こうした活動から今後、何人かでも継続的に問題意識を抱いて将来の仕事につなげてくれればいいですね。
午後からは発表です。グループ内で一つの原稿を全員が交代してつなげながら発表するのではなく、今回は決められた発表時間を1人が発表する形にしました。それは自分たちの取り組んだことを最初から最後まですべて把握して、自分で流れを作って責任をもって発表し、質問に答えるということも学んでほしいからです。グループワークではありますが、誰かに任せきりにしたり、頼ってしまうことのないように工夫しました。
作業としての時間はこの2日間ですが、SDGsの探究学習をやることは事前に予告してありました。その成果もあって、自分たちで資料や本を持ってこの場に来ている生徒が目につきましたし、生徒の意識はもっと前からスタートしていて、各自がイメージを持って参加しているからこそスムーズに進められているのだと思います。それぞれのスマートフォンやノートパソコンなどを積極的に使用させたのも今回が初めてですので、今回は新しい要素が多いですね。本校には学年ごとにいろいろな取り組みがありますが、常にブラッシュアップして何が生徒の大きな学びになるのかを考えながら、より良い方法を実行していきたいと思います。
つくる責任 つかう責任
◆私たちが伝えたいSDGSの目標「つくる責任 つかう責任」から考えたメッセージは、「資源を大切に」ということです。最初、企業の取り組み事例を中心に展開しようと思いましたが、調べていくとうちに企業だけでなく、私たち消費者や政府などすべてが取り組まないと解決しない問題だと気づき、そこを提案しています。
◆他の目標だとターゲットが絞られてしまう気がしたのですが、「つくる責任 つかう責任」という目標は幅広く何にでも適用され、他の目標と関連づけられることもたくさんありました。私たちの班の考えをまとめた提案を具体的に発表したいと思っています。
◆話し合っていくうちに自分にない意見がどんどん出てきて本当に面白かったです。最初はそれぞれで意見を出し合い、どれにするか、どうまとめるかで悩んでいたのですが、「全部まとめて提案すればいいんじゃない?」という一言で出て、そこから一気に進みました。自分にない発想をたくさんもらえて、大きな学びがありました。
◆初めてSDGsについて調べて、すごく興味を持てました。「Sustainable Life Market」という私たちが考えた案をできるだけわかりやすく自分も言葉で伝えたいと思っています。どんな形になるかはわかりませんが、今回知ったことを、今後にも生かしていきたいし、何か行動したいと思います。